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Ørnens øje 鷲の眼

デンマーク映画 (1997)

ヴァイキングがキリスト教化し、クヌート大王(11世紀)が築き上げた北海帝国(版図はデンマーク、イングランド、ノルウェー)が死後に崩壊し、その再建を目指したヴァルデマー1世の次男ヴァルデマー2世(在位1202-41)の時代に起きた架空の出来事を描いたファミリー映画。主役は、ヴァルデマー2世の最初の配偶者ダグマールの長男ヴァルデマー。映画の設定年は1218年なので、ヴァルデマー2世が48歳、長男ヴァルデマーが9歳の時にあたる。この映画の出来事の素材となったのは、恐らく、ヴァルデマー1世(在位1157-82)の跡を継いだ長男のクヌート6世(1182-1202)の時に起きた一連の陰謀であろう。それは、ヴァルデマー司教〔同じ名前が多い〕が1192年に “Prince-Archbishop of Bremen〔ブレーメン大司教区領の君主〕” になった時、ドイツの貴族の助けを借りて、クヌート6世を廃位させようと企み、自らデンマークの王座に就こうとして失敗し、監禁されたという歴史的事実。時代は一世代古いが、映画の状況と良く似ている。そこでは、Ravnsborg(ラウスボー)という架空の城に拠点を構えた司教が、ヴァルデマー2世の戦費を負担させられる不満分子としての地主達を味方に付け、ヴァルデマー2世の長男ヴァルデマーを人質にして王位の禅譲を画策する。主人公のヴァルデマー王子は、司教の城の厨房の使い走りの少年アスケを自分の従者にし、2人で協力して司教の陰謀から父を救い出す。歴史的には、このヴァルデマー王子は1231年に狩猟中に間違って撃たれ、22歳で死んでしまう。だから、1241年にヴァルデマー2世が死去した時に跡を継いだのは後妻の生んだ次男(エーリク4世)。映画での活躍ぶりを見ていると、何だか可哀想な気がする。それに、そんなに早く死んでしまっては、従者になったアスケの将来も暗い。

1218年。いわゆる “中世の暗黒時代”。デンマークの若き王子ヴァルデマーは、父のヴァルデマー2世に棒術を習っている。しかし、そんな平和な時期も、ドイツとの国境の情勢が危うくなると終わってしまい、王は陣頭に立って兵を進めることに。王子は一緒に付いて行きたがるが、王は、それが大失敗だとは気付かず、司教に預けてしまう。司教は、かねがね王に反感を持つと同時に、自分の地位に不満を抱いていたので、王子を押し付けた威圧的なやり方を見て、遂に反乱を決意する。その裏方となったのは、かつて戦場で王に見放され、恨みを抱いていた “一つ眼” という異名を持つ騎士。彼の抜き取られた片目は、鷲に食われ、以後、鷲の眼を通して物が見れるようになったと噂される悪の象徴だ。“一つ眼” は司教区の地主達を煽って王に対する反感をつのらせ、王の武器を隠すよう説得する。司教に預けられた王子は、狭い部屋に閉じ込められてラテン語の写本をさせられることに嫌気がさし、隙を見て逃げ出す。そして、司教の城の厨房で使い走りを務める孤児のアスケと出会う。アスケは、最初、相手が王子とは知らなかったので、出会いは最悪だったが、その結果、2人とも城の外に放り出されたことで、王子は父に会いに行こうと決断する。アスケは、王子からは拒否されるが、心配なので跡をつける。そして、役に立つところを見せたことから、王子の従者となる。一方、王子に会いたくなった王は、僅かな手勢を連れて司教の城を訪れる。司教は、王の護衛を引き離そうと、“一つ眼” に指令を出して罠を用意する。王子は、偶然洞窟に落ちてしまったことで、隠された武器の存在を知っただけでなく、“一つ眼” から罠のことも盗み聞きする。そこで、罠が仕掛けられた農場に駆け付けるが、王の護衛は捕らえられてしまう。かろうじて逃れた王子は、父に急を知らせるが、そこに司教が入って来て2人とも塔の高みに監禁される。司教は、反乱に参加した地主達を前に、王に対して、王位移譲に関する文書に封蝋印を押すよう迫るが、拒絶される。そこで、王子を絞首台にかけると脅す。一方、城に戻ったアスケは、修道僧に化けて王子を救出した後、友達のシーニュと図り、地下牢に監禁されていた王の護衛兵を解放する。反乱地主のいる広間へは、王子が天井から侵入し、その姿を見た王は、絞首台にいるのが王子ではないと知り、文書を破り捨てる。相前後して、全員に姿を見せた王子が、護衛兵に突入を命じたので、地主は取り押さえられ、“一つ眼” は王子自身が天井の重い照明器具を落下させて倒す。死を覚悟した司教は、王子を人質に取って逃げ出すが、改心した “一つ眼” の意を汲んだ鷲の襲撃を受けて死亡する。

ヴァルデマー王子役はNijas Ørnbak-Fjeldmose。1983年8月15日生まれ。アスケ役はLasse Baunkilde。1983年6月22日生まれ。2人とも正しい発音は不明。誕生日が近いこともあり、2人の息はぴったり合っている。Nijasは、この映画の前に2回TVシリーズに顔を出しているが、映画への出演は初めて。その後も端役で出演したが、今はバンドのギタリストとして活躍。Lasseはこれが映画・TVを含めて初出演。『Min søsters børn』(2001)に脇役で出たのが、子役時代最後の活躍。

あらすじ

林の中で、ヴァルデマー王子が木の棒を持って構えている(1枚目の写真)。鳥の飛び立つ音にも敏感に反応するが、相手はどこにもいない。「姿を見せて!」。鎖帷子を身にまとったヴァルデマー2世が、同じような木の棒を持って現れる。「まだ あきらめておらんのか?」。「戦うよ」。「その意気だ」。父王は、棒を右手と左手の間で飛ばし、王子も真似をする。そして、お互いに棒を構えて打ち合う(2枚目の写真)。父との対戦に王子は笑顔を見せる(3枚目の写真)。そして、「父上、最強の戦士になりたいな」と言う。「いつの日か、そうなる」。王子の棒が父の左手に当たるが、そこで隙が生じ、父の棒が王子の足を払い、転倒させる。「敵の次の一手を読まねばな」。
  
  
  

そこに、馬に乗った騎士が駆けてくる。「アルバート伯爵〔grev〕、いかがした?」。「王よ、新しい知らせです。国境の南の敵が動き始めました。警備軍が危機的な状況に」。「騎士を集めよ。進軍の用意だ」。伯爵が去った後、王子は、「父上、何が起きているのです? これから戦闘に?」と訊く(1枚目の写真)。場面は変わり、夜になり、騎士たちが持つ松明の火が闇を照らす。王は、王子を1台の馬車のところまで連れて行く。そこには3人の修道僧が待っている。修道僧は「パクス・ヴォビスコム〔ラテン語:あなたに平和を〕、国王様」と言上する。王は、1通の書状を「これを ラウスボーの司教に」と言って渡す。それを聞いた王子は、「ラウスボー?」と不審がる。「安全な場所なのだ、ヴァルデマー」。「ラウスボーなど行きたくありません。父上と一緒にいさせて!」(2枚目の写真)。「ヴァルデマー、お前はまだ戦えぬ。それに、もっと学ばねばな」。王は、そう宥めると、「覚えておけ、お前も いつか王になる」と言いながら、十字架のついた金の鎖を王子の首にかける(3枚目の写真、矢印)。王は、王子を抱いて「できるだけ早くお前を戻すからな」と言うと、騎士を引き連れて発つ。
  
  
  

王子が乗せられた馬車には、ほとんど窓らしきものがない。いたたまれなくなった王子が、自分の席の横にある小さな四角の明り取りを開けると、わずかに空が見える。空には、馬車と並行するように鷲が飛んでいて、王子はその雄姿に惹きつけられる(1枚目の写真)〔この鷲は、“一つ眼” の異称をもつトーストン・ヴィンゲの目/鷹が見たものはヴィンゲにも見える/ヴィンゲはいつも王の動向を探っている〕。馬車はラウスボーの城のある島に向かう(2枚目の写真)〔撮影は、デンマークではなく、スコットランドにあるEilean Donan(エレン・ドナン)城で行われた/13世紀初め頃の創建だが、現在の城は1719年に砲撃で爆破され、1932年に再建されたもの〕〔修道院長ではなく司教(biskop)なので、隔絶した場所にある城に住んでいるのはおかしい〕。城に着いた王子は、直ちに司教のいる礼拝堂に案内される(3枚目の写真)。司教は、「ドミヌス・ヴォビスコム〔ラテン語:主はあなたと共に〕、麗しき王子よ」言ったあと、「稀なることですな、王家の…」と重々しく続けようとする。しかし、王子は、それを遮り、肩書も添えずに「そちがエスキルか?」と訊く。気分を害した司教は、「私はエスキル司教です。教皇によりラウスボー教区の司教に選任された者です」と格式を鮮明にする。「そうか。これを持参した」。そう言うと、修道僧の持っていた手紙を取り、司教に差し出すと、「さあ、王の命令だ」と強権的に言う(4枚目の写真)。この「命令〔デンマーク語でも “order”〕」という言葉にも司教は気を悪くする。「あなたの父上が、私に命令をすると…?」〔王ではなく父と言った〕。王子は再度遮り、「王が命令したのだ。そちが従うものと期待してな」と、「命令」を疑問視し「父」と言われたことに反撥する〔司教は、当時かなりの政治的権力を有していたので、王子のような尊大な物言いは得策ではない〕
  
  
  
  

王子は、その後、一旦建物の外壁に出て階段を上るが、その時、下では、1人の汚い格好をした少年がキーキー鳴く豚を追いかけている(1枚目の写真、矢印)。のちに王子の従者となるアスケの初登場場面だ。王子は、面白そうにそれを見る(2枚目の写真)。その先は、王子受難の場。王子は樽の水に入らされ、修道僧から、「ここの学徒である以上、兄弟愛の盟約に従わねばなりません」と言われる。王子は、「そんなものには従わない」と反対するが、大きなハサミを持ち出され、無理矢理髪を修道僧風に丸くカットされる(3枚目の写真)。一方、司教は、王からの手紙を開く(4枚目の写真、矢印は赤い封蝋印)。達筆で書かれた手紙は、王子に教育を与えるよう依頼するもので、それを読んだ司教は、「私… このエスキル司教が? ローマ、アヴィニョン、パリで学び、インノケンティウス3世教皇(1198-1216)ご自身の助言者でもあった私が、学徒の教師をせよと?」と怒り心頭。さらに、「いつ王が戻るかも分らんというのに?」と不満を漏らす。すると、側近の修道僧が、「戻るのでしょうかな?」と変なことを言い出す。「何のことだ?」。「『猫がいないと鼠は遊ぶ』と申します。ラウスボーの大地主達は、王の絶えざる戦いに疲れ果てております」。この悪意に満ちた示唆に対し、司教は、「そろそろ、王を変える潮時だな」と言い出す。修道僧が「ヴァルデマー王子にですか?」と訊くと、「いいや、そうではない。ヴァルデマーが、ここラウスボーにいる限り、決めるのは私だ」と言う。髪形も服装も修道僧と同じになった王子は、装飾の一切ない、小さな窓が1つあるだけの部屋に入れられる(5枚目の写真)。司教は、最初の講義だと言い、3冊の本を机の上に置く。そして、側近の修道僧を紹介し、ラテン語の写本を指導させると告げる。王子が、「剣術はいつ?」とすがるように訊くと、司教は嬉しそうに答える。「まず学び、遊びはその後で。王は、あなたに、夜明けから夜更けまで勉学に打ち込むよう望んでおられます。さすれば、いつか良き王になれると」。部屋から出た司教は、番兵に「少年〔drengen〕が、姿をくらまさないよう、よく見張れ」と命じる〔“王子” とは言わない〕
  
  
  
  
  

厨房では、今日的に言えばシェフが、ぶつぶつ不満を言っている。「食事を運べだと? 王の息子だって食堂まで降りてくりゃいいんだ。なのに、司教様は『だめだ』と言われる。『まかりならん』と」。そして、テーブルの上に放置されていたキャベツの山を見つけると、「なぜ、キャベツが放ったらかしになっとる? アスケはどこだ?」と怒鳴る。すると、背後から、アスケが リンゴをかじりながら「おいらを探してる?」と訊く(1枚目の写真、矢印はリンゴ)。“シェフ” は、「誰が、司教様のリンゴを食っていいと言った?」と叱る。「誰も」。「『誰も』? 『誰も』ってのは、どこのどなただ?」(2枚目の写真)。アスケは首をつかまれ、りんごを取られて、キャベツの山に投げ出される。友達の少女シーニュが、「なんであんなことを?」と質問すると、アスケは「あんなに怒鳴らなくても」と、“シェフ” の様子がいつもと違っていると指摘する。「王様の息子のせいよ」。「そうか? 見たのか? でも、お客を閉じ込めるのって変じゃないか?」。一方、司教は、王子を連れて来た修道僧に頼み事をしている。「極秘裏に、“一つ眼〔Enøjede〕” の所在を探って欲しい」(3枚目の写真)。「司教様。彼は悪の化身なのでは?」。「毒を以って毒を制するのだ」。
  
  
  

王子が、閉じ込められた部屋で、ラテン語の本を写していると(1枚目の写真)、外から、修道僧の一行が祈りを唱えながら出かける音が聞こえる(先ほどの修道僧がお供を連れて出かける)。異様な風が吹き、修道僧は空を見上げ、同時に、王子の部屋の窓が風で開き、光が差し込む。風で紙が床に落ちてしまったので、思わず「ちくしょう」と罵るが、叱られると思い、慌てて手で口を押えるが、叱られない。よく見ると、王子の前の高いイスの上で監視していた修道僧がうたた寝をしている。王子は、修道僧に向かって「ちくしょう」と声をかけてみるが、反応がない。そこで、こっそり席を立ち、開いた窓から空を見上げると、また、鷲が空を舞っている。司教のいる部屋でも、蝋燭の火が揺れたり、風で扉が閉まったりと、変なことが起きる。人の気配を感じた司教は、立ち上がって室内の真ん中まで来た時、ハッとして十字架を振り返ると、そこには、先ほど呼びに行かせたばかりの “一つ眼” が立っていた(2枚目の写真、矢印)〔王子が城に行ったのを鷲の目を通じて知り、すぐに駆け付けた〕。「司教よ、話し合いが必要だ」。「ここには来ないという約束ではなかったか?」。「王だ」。この謎かけのような一語に司教は戸惑う。一つ眼:「お前は力を取れ、俺は王を取る」。司教:「あんたに王はやる。ただし、私が新しい王になってからだ。そのためには、地主達を私の味方にしてもらわねば」。「約束するか?」。「約束ではなく、命令する」。こうして、身分不相応な契約を司教がしている時、王子は、監視役の修道僧が出て行く際、鍵穴に差し込んだままにしておいた鍵を、内側から押し出し、床に敷いた紙の上に落として回収する。そして、その鍵で扉を開けて外に出るが、すぐ兵士に見つかり、階段を走り降りて物陰に隠れる(3枚目の写真)。物陰は扉でもあったので、王子は、その先にあった厨房に逃げ込む。
  
  
  

厨房の中で、王子は、リンゴの籠で顔を隠す(1枚目の写真)。しかし、それに気付いたアスケが、「おい、お前! 司教様のリンゴに触っていいと誰が言った?」と怒鳴ったので、籠を持ったまま逃げ出す。アスケは、その後を追いかける(2枚目の写真)。そして、外に出たところで飛びかかり路地の上で取っ組み合いに。しかし、揉み合っているうちに、王子の襟元の金の十字架が露わになり(3枚目の写真、矢印)、アスケにも、自分が誰に襲いかかったかが分かる。「あなたは… おいら、そんな気じゃ…」。しかし、その時には、すでに城の警備兵が後ろに来ていて、「ここで何をしとる。汚い農民ども!」とアスケを羽交い絞めにする。
  
  
  

アスケは、城の汚物捨て場から外に落とされる。次いで王子が落とされる(1枚目の写真、矢印は、汚物の山の上に落ちたアスケと、斜路を飛び出した王子)〔こうした汚物捨て場は、中世の城や城塞都市の “必需品” で、下水道もゴミ捨て場も何もないこの時代の居住地区にあって、衛生環境を最低限のレベルで保つための唯一の手段だった〕。汚物の山の上に落ちた王子に、アスケは、改めて、「ごめんなさい、王子様、存じ上げなかったもので」と謝るが、「邪魔だ!」と怒鳴られただけ。アスケは必死だ。「おいら、殺されちまう。ケガしてない?」と訊き、慌てて、「おケガはありません?」と言い直す(2枚目の写真)。王子は、立ち上がると、「この馬鹿者」と言い、城から立ち去ろうとする。「気付かれる前に戻らなきゃ。道知ってる。こっちだよ!」。城にいても 部屋に閉じ込められるだけなので、王子は、そのまま森の中に入って行く。上空を鷲が舞う。アスケは、何とか戻ってもらおうと、後をついて行く。「王子様、戻らないと。おいら、司教様に殺されちゃう」(3枚目の写真)。「それは、お前の問題だ」。「ここにいちゃ、いけないよ」。「私は、何でも好きなことができる」。「司教様は、それ知ってます?」。「どこかに消えろ、この奴隷!」。「おいらはアスケだ、奴隷じゃない!」。王子は、「邪魔だ!」と、地面に押し倒す。そして、どんどん先に歩いて行く。
  
  
  

王子の辿り着いた先は 沼地。一歩足を踏み入れると、靴がずぶずぶと入ってしまう。どうしようかと迷っていると、沼地に突き出た木の幹の上に陣取ったアスケが、口で鳥の真似をする。それに気付いた王子は、アスケに「邪魔だと言わなかったか?」と告げ。アスケは、ニヤニヤして指差しながら、「おいらだったら、そこに入らないね」と言う(1枚目の写真)。だらに、「そこは危険だよ。泥炭の沼なんだ」。アスケは幹から降りて 王子の横に立つ。「一歩間違えると、沈んじゃう。底なしなんだ。地獄まで沈む」。「ばかばかしい」。アスケは、王子が持っていた木の棒を取ると、「見てて」と言い、棒を一点に刺し、「ここは危なくない」と言う。そして、わずか数10センチずらした場所で、「でも、ここは…」と言いながら棒を刺すと、棒全体が抵抗なく入ってしまう。「絶対、出られない」。アスケの言ったことは認めたが、王子は、「私には、怖いものなどない」と強がる(3枚目の写真)。アスケは、「そうだね。ご自由にどうぞ」と おどけて言い、王子を怒らせる。その時、騎馬の音がしたので、アスケは王子に、「こっちへ。頭を下げて。見つかっちゃう」と、陰に身を潜めさせる。これも、王子には面白くないが、複数の騎馬の男達がいるので、従わざるをえない。
  
  
  

その中の唯一の騎士、司教の前に現れた、“一つ眼” が兜を開けると、それまで空を舞っていた鷲が一直線に降下して 腕にとまる(1枚目の写真)。アスケは「ここから離れようよ」と言うが、王子は逆に近づいて行く。アスケは、「ねえ、戻ろう。あいつが誰だか知らないの?」と 止めるが、王子は、話が聞き取れる位置まで近寄って行く。木立の中の開けた空間には、10名ほどの騎馬の男たちが集まっていた。地主の1人〔ミッケルスン〕が、全員に向かって呼びかける。「地主達よ、立ち上がるのだ。いつまで、王の戦争に金を払う気だ? いつまで、王の軍隊に武器を差し出す? 今まで見返りはあったか? 何もない! 今こそ、打って出て、天下を取る時だ!」。具体的な話が出ないので、いらいらした “一つ眼” が、「ミッケルスン、さっさと始めんか!」と叱咤する。その顔を見たアスケは、「“一つ眼” だ。死ぬより恐ろしい」と怯える。王子:「静かに、話が聞けん」。ミッケルスンは、具体論に入る。「我々の武器を隠そう。そうすれば 王は、無防備になる。我々の方が強くなる」。“一つ眼” は、「疑う者はおるか?」と訊く。ミッケルスンは、「いるはずがない!」と決めつけ、剣を抜くと、「王に死を!」と叫ぶ(2枚目の写真)。他の地主も剣を抜いて同調する。王子は、頭にきて出て行こうとするが、アスケは必死に押し留める。中に1人だけ、剣を上げない地主がいた。“一つ眼” は、「オルフ・エビスン、お前は疑うのか?」と訊く。勇気のあるオルフ・エビスンは、「違う! 私は王に忠誠を誓う」と言い、陰謀の集まりを後にする。王子とアスケは、その雄姿を見送る(3枚目の写真)。しかし、復讐は素早く、勇敢なオルフ・エビスンは、“一つ眼” の部下によって、クロスボウで殺される。
  
  
  

それを見て驚いた時に枯れ枝に触った時の音が クロスボウの射手に聞かれてしまい、やばいと思った2人は逃げ出す。秘密を盗み見た子供が逃げ出したことは “一つ眼” にも分かり、直ちに鷲を放って上空から追跡させる。2人はまばらに木の生えた、上空から見れば遮るもののない場所を走って逃げる(1枚目の写真、矢印)。鷲は、攻撃態勢を取り、2人目がけて一直線に降下してくる。王子は、倒木につまづき転倒し(アスケも一緒に転倒)、その衝撃で十字架の鎖が落ちてしまう。しかも、鷲は急接近、アスケは王子に抱き着いて体を回転させ、何とか鷲の攻撃を回避する(2枚目の写真、矢印は鷲)。2人は、すぐに立ち上がり、近くにあった “常緑の低木が密生している場所” に潜り込む。これなら、鷲にも見えないし、追ってきた “一つ眼” と、その手下2人も中に入って行けない。追手の1人は、「たかが2人の農民のガキだ」と言うが、それを聞いた “一つ眼” は、「そうかもしれんが、話を聞かれた」と警戒する。しばらくして、その “密生地” を貫くようにつけられた道を抜けて、1台の二頭立ての牛車が出てくる(3枚目の写真、矢印)〔ヨーロッパの中世では、馬車より牛車の方が一般的だった⇒道の状態が悪すぎ、馬より牛の方が適していたため〕
  
  
  

牛車は「農民のガキ」が隠れた低木林の間から出て来た上に、“一つ眼” の鷲が荷台の上に舞い降りたことで、第一級の容疑者となり、“一つ眼” が行く手を塞ぐ。そして、2人の手下が寄ってくる。「どこに行く気だ?」(1枚目の写真)。「ニシン市場だよ」。「ニシンはどこにある?」。1人が被せてあった布を剥がすと、最初に現れたのは鶏を数羽入れた籠。それを見た “一つ眼” は、鷲が舞い降りたのは 鶏が欲しかったからだと勘違いし、鷲の目を黒い袋で覆う。最初、王子とアスケは鳥籠の下のキャベツの上に隠れていたが、アスケが、キャベツの下に、もう1つ木の箱があることに気付き、2人はその中に移動する(2枚目の写真)。1人の手下は、剣を抜くと、手当たり次第に突き刺し、中に隠れていないか確かめようとする(3枚目の写真)。幸い、2人の隠れた箱の板が邪魔になり、剣はその上に置かれたキャベツを串刺しにするだけ。「くそっ、キャベツしかないぞ!」。それまで、ハラハラしながら見ていた農民は、「おらはニシンじゃなく、キャベツを売りに行く。そもそも、キャベツ市場って名に しときゃよかったんだ」とブツブツ。キャベツに苦戦する部下を見た “一つ眼” は、「もういい!」と怒鳴る。部下は、謝罪一つせず、牛の尻を棒で叩いて暴走させる。
  
  
  

牛の暴走が止まってから、アスケは、「うちに帰りたいよ」と泣き言を漏らす。農夫は、「ばかを言うんじゃない。“一つ眼” がいるんだぞ」と警告する。王子は、アスケが名前を口にしたが、どんな人物か教えてもらっていないので、「そいつ、何者?」と訊く(1枚目の写真)。「悪の化身。命取りだ。いつもは北の方にいて、お偉方に雇われて悪事を働く」。「雇われて?」。「いいか、これから話すのは、子供が聞くような話じゃないから、聞かなかったことにしてくれ」。2人は頷く。「お偉方に借金して返せないと、“一つ眼” が呼ばれる。そしたら、持ってるものを全部売るしかない。女房にガキども、鶏も全部だ。でないと、首をちょん切られる」。アスケは、「なんで、大きな鳥を持ってるの?」と訊く。「何年も前のことだ。おっかない戦いがあってな、奴は片目を落としちまった。泥の中をまさぐったが、突然嵐が起こって雨に打たれて目が出て来た。すると、大きな鷲が突然現れて、食っちまった。だが、奴は、鷲を捕まえ、残った目で鷲を睨みつけた。すると、嵐が終わり、妙なことが起きた。奴は、鷲の目を通して、物が見えるようになったんだ」。話がそこまできた時、王子は、十字架を落としたことに気付く。そして、同じ頃、灌木の林では、“一つ眼” が十字架を見つけていた。剣の先で拾い上げると、「『たかが2人の農民のガキだ』? これは何だ?」と怒り心頭になり、手下に突き付ける(2枚目の写真)。「あのガキを捜し出せ!」。王子を乗せた牛車は、ニシン市場に着く。アスケは、「乗せてくれてありがと」と言う。しかし、王子が農夫の肩に手を置き「王が報いるであろう」と言ったので(3枚目の写真)、アスケは、「ただの冗談だよ」と、その場を繕う。
  
  
  

アスケが、「これから、どうするの?」と訊くと、王子は、「私は、国境まで行く」と告げる。「国境? なんで?」。「父上を捜す」。王子は、大量のニシンを珍しそうに眺める(1枚目の写真)。「どうやって、見つけ出すの? 助っ人がいるよ。道知らないよね」。「知ってるのか?」。「うん」。「知るはずなかろう」。「おいらが道をたずねりゃ、誰も甘やかされた王子様だなんて思わない」。この皮肉のこもった言葉に、ちょっぴり反省した王子は、「よろしい。お前は、私の従者〔væbner/騎士の従者、お供〕になれ」と提案する。「それって、何するの?」。「言われた通りにすればいい」(2枚目の写真)。「いいよ」(3枚目の写真)。「面倒に巻き込まれたら、おいらがやっつけるから」。かくして、アスケは、厨房の使い走りから、王子の従者に昇格した。
  
  
  

アスケが、「いいよ」と言った直後、1人の男が、「邪魔だ、チビ助」と言い、アスケを押し倒して通り過ぎる。王子は、アスケを助け起こすと、「謝らんか!」と命じる(1枚目の写真)。男:「何か言ったか?」。「そうだ。謝れ」。アスケは、「行こうよ」と弱気だが(2枚目の写真)、王子は、「だめだ。謝らせる」と拒否。「私の従者に謝れ。さもなくば、痛い目に合うぞ」。男は、「従者だと? なら、お前は騎士なのか?」と、せせら笑う。「誰に向かって話しているか、分かってないな?」。男は、「お前だ」と言うと、いきなり王子を押し倒す。そして、大きなナイフを取り出す。王子は、起き上がると、横にいた老人の杖を借り、男に対し、かつて父と戦ったように、棒を右手と左手の間で飛ばし、まず1発を顔に食らわす。次いで、棒を回転させ(3枚目の写真)、さらにもう1発。3発目は腹部、4発目のすくい上げるような一撃で男は気絶する。
  
  
  

意識が戻った男は、「こいつ、殺してやる!」と叫んで起き上がったので、2人は、ニシンの網を干している納屋の中に隠れる。アスケは、「誰が、戦い方 教えてくれたの?」と訊き、王子は、「父上」と答える。「すごかった! 『謝れ。さもなくば』、そして、バン!」。似たような恰好をしてみせるアスケのひょうきんぶりに、王子も楽しそうに笑う。そこに、一部始終を見ていたシーニュが、鶏2羽をぶら下げて入って来て、「アスケ」と声をかける。王子は、すぐにアスケの後ろに隠れる。「シーニュ? こんなとこで、何してるんだ?」。「あんたこそ、何してるのよ? 司教様に、もし一緒だと知れたら」〔シーニュは、王子が厨房に逃げ込んだ時、チラと見ていた〕。アスケは、「おいら一人だよ」と強がるが、王子の姿はアスケの後ろに見えている。シーニュは、「分かったわ。あんたがそう言うなら」と言った上で、王子に向かって、「今日は、シーニュです。戦うの上手ですね」と声をかける。アスケは、隠すのをあきらめ、「おいらたちを見たこと、忘れろよ」と注意し(1枚目の写真)、今夜の夕食にと、鶏を1羽奪い取る。夜になり、アスケは焚火を起こし、鶏を丸焼きにする(2枚目の写真)。王子は、日中のことを思い出し、「奴が雇われているとしたら、誰が雇ったのかな?」と訊く。「分かんない。だけど、ここにいれば安全だよ」。「父上に警告しないと。何とかして国境に行こう」。「明日、牛車を捜すから」。その頃、司教は、王子が「消えた」としか言わない修道僧達に怒りをぶつける。そして、全員を追い払った後で、「主よ、なぜ私の周りにあのような馬鹿どもを? 私を試すお積りか?」と、嘆く。すると、そこに忍び寄った “一つ眼” が、王子の十字架の鎖を司教の目の前に垂らす。「ここで、何をしておる?」。“一つ眼” は、「王子を閉じ込めておくはずでは?」と司教を責める(3枚目の写真)〔前回、そのような約束はしていなかったが…〕。司教:「王子は、今どこに?」。「我々の謀議を見られてしまった!」。「手に負えぬ子供に大厄災だ。もし王子が王に知らせたら、すべてがぶち壊しになる」。「もし、明日、見つけられなかったら、俺は、自己流で行くからな」。
  
  
  

王子は、アスケに、「なぜ、ラウスボーの台所などにいたんだ?」と訊く。「父ちゃんみたいに、しただけ」。「お父さんは、今どこに?」(1枚目の写真)。「父ちゃんも母ちゃんも死んだ」(2枚目の写真)。「母上も亡くなった」〔1212年、王子が3歳の時〕。「父さんと別れて、寂しくないの?」。「寂しくなんかない。自分のことは自分でできる」。そう言いながら、王子は悲しくなって、すすり泣く。アスケは元気付けようと、笑顔で、「王子さんに遭わなかったら、おいらずっとキャベツを刻んでた」と笑う。それを聞いた王子は、「私が父上を見つけたら、お前も、ラウスボーを出て、私と一緒に来るか?」と訊く(3枚目の写真。涙の跡)。「いいの?」。「もちろん。私の従者だから」。「約束だよ。だけど、その時には、新しい靴をくれなきゃね」。2人は握手する。
  
  
  

翌朝、朝靄をついて、王が手勢を引き連れてラウスボーに向かう(1枚目の写真)〔一旦出陣したのに、如何にも早すぎる…〕。王の “寝耳に水” の到来に驚愕した司教は、王子がまだ見つかっていないので大慌て。王と全軍が合体する前に、王を捉えようと覚悟を決め、側近の修道僧に “一つ眼” への手紙を託す(2枚目の写真)。王が司教の居室に入って来たのは、司教がやっとのことで式服を着終わった直後。司教が、「王よ、こんなに早くお越しになられるとは」と挨拶すると、王は、それには返事をせず、「我が息子はどこだ?」と尋ねる(3枚目の写真)。まだ、言い訳を考えていなかった司教は、「お越しになると分かっていれば、ヴァルデマー王子もここにおられたのでしょうが…」と言うが、その先が出てこない。まだ、残っていた “悪だくみ” の上手な側近は、「国王様、ヴァルデマー王子は、外で、植物採集〔botanisere〕をしておられます」と、不在の理由をでっち上げる。意外な返事に王は拍子抜けする。司教は、「ヴァルデマー王子は、まじめな学徒でして」と嘘を補強する。「息子に会いたい。捜して参れ」。
  
  
  

騎馬の音を聞いたアスケは、眠っている王子を起こす。「誰かが来るよ」。それは、昨日、牛車で2人を苦しめた2人組だった。焚火のあった場所にいるのは拙いので、アスケと王子は 岩陰に隠れて様子を伺う(1枚目の写真)。2人が焚火に気付いたので、アスケと王子は、その奥にあった穴に逃げ込む。穴の中からは、焚火跡を調べる “一つ眼” の手下の様子が手に取るように見える(2枚目の写真)。手下は、「変だな」と言いつつ、ナイフを差し込んで調べている。そして、何かを見つけたらしくて、仲間を呼ぶ。その時、奥に入り過ぎた王子が、下の穴に滑り落ちてしまう。当然、それなりの音がしたので、不審に思った手下が穴の入口から覗くが、地面にへばりついたアスケは見つからずに済む。落ちた王子は、お尻を打ったくらいで、ケガはなかった。その洞窟には、人の手が入っていて、松明が燃えている。王子は、松明を手にすると、奥に入って行く。そこは、広大な空間になっていて、船が入って来れるようにもなっている(3枚目の写真、矢印は王子)。穴に隠れたままのアスケの前を、多くの騎馬が走って行き、1人が、「洞窟への入口はこっちだ」と叫んでいる。アスケは気が気でない。王子が水際まで降りて行くと、そこには大量の武器が置いてある。王子の頭には、ミッケルスンの言葉がよぎる。「我々の武器を隠そう。そうすれば 王は、無防備になる」。
  
  
  

一方、司教の部屋では、王の作戦会議。伯爵が、「ドイツの騎士は引き下がりました。南の国境は安泰です」と報告する。王は、「もし、奴らがエストニア〔バルト海の最奥部。フィンランドのヘルシンキの南方対岸〕に入ったら、どう対処する? 奴らより先にエストニアに行くんだ。バルト海と、貿易の自由は旦保せねばならん」と言う〔もし、政治や先頭に無能な司教が王位についたら、デンマークはあっという間に他国に占領されるだろう〕。王は、さらに、「我々の軍隊には、全土で武器の供給が必要だ。もちろん、ラウスボーもだ」と付け加え、司教に対し、「この辺りの地主に、貯蔵した武器の供出を伝えよ」と、命令書を渡そうとする。しかし、司教は、口ごもった後で、「問題があります。地主達は、王には武器の供出をしないと主張しております」と話す。「そやつは、誰だ?」。「ミッケルスンです」。王は、「あり得ん」と言うと、伯爵に、小声で、「あいつ〔司教〕は何か隠している。何が起きているか見つけ出せ」と命じる。「全軍の到着を待つべきでは?」。「わしは、馬鹿にされたくない」。その後は、司教にも聞こえるように、「至急、ミッケルスンの所に行け」と命じ(1枚目の写真)、それを聞いた司教は、“我が事成れり” とニンマリする〔王は1人だけになり、少数の手勢は、ミッケルスンの農場で罠にはまる〕。一方、武器の貯蔵庫の洞窟では、雇われた反乱兵どもに、「一人につき 剣は一本だ」と武器を支給している。そこに、“一つ眼” が現れ、「準備はできたか? 兵士はすぐに発て。王はまだラウスボーにいる」と命令する。それを、物陰に隠れて聞いていた王子は、「父上が戻った?」と驚いて聞いている。“一つ眼” は、さらに、「アルバート伯爵がミッケルスンに向かっている。司教は、罠を用意した」と告げる。これは、王子には衝撃だった(2枚目の写真)。全員が洞窟を出て行った後、王子は、何とか伯爵に危険を伝えなくてはと、洞窟を出る方法を探るが〔反乱兵が出て行った口は、塞がれていて出られない〕、道に迷って出られなくなる。絶体絶命になった時、上から白い未固結の石灰岩〔チョーク〕がパラパラと落ちてきて、太陽の光が見える。アスケが何かをしたのかどうかも、映画では分からないが、彼が王子のために祈っていると、そこに、チョークで白くなった王子が姿を見せる。アスケは、「二度と会えないと思ってた」と大喜び(3枚目の写真)。
  
  
  

王子は、すぐに、「ミッケルスンの農場はどこだ?」と尋ねる。一方、伯爵の一行は、ミッケルスンの農場の中まで入っていくが、人の姿がどこにもない(1枚目の写真)。伯爵は、「寝床から出て来い! ミッケルスンに話がある!」と大声で呼びかけるが反応はない。「王の武器を直ちに引き渡せ!」。その時、子供の声が聞こえる。王子が駆け込んできて、「アルバート伯爵、これは罠だ!」と叫んだのだ。伯爵は、「ヴァルデマー王子?」と目を疑う。「これは罠だ!」(2枚目の写真)。バレたと分かってしまったので、一斉に矢が放たれ、扉が開き、裏切り者どもが襲ってくる。王子の身を案じた伯爵は、馬に引きずり上げると、そのまま農場から全速で離れる。しかし、前回、オルフ・エビスンの命を奪った “一つ眼” の部下が、再びクロスボウで伯爵の背を射抜く(3枚目の写真)〔映画では、この後、矢が当たったのが背中の中心だと視認できる。しかし。翌朝には、左腕を三角巾で吊った姿で登場する??〕
  
  
  

王子は、一人馬上に取り残される。落馬した伯爵は、「そのまま、お行きなさい」と言うが、王子は、「アスケのために戻らないと」と、従者を心配する。「お父上に警告せねば!」。「でも、アスケが。いつも一緒でないと」。「一刻の猶予も。お父上の命が危ない!」。そして、自分の紋章を引きちぎると、「これをお渡しなさい。王なら、お分かりになる」と言い、投げて寄こす。王子は、申し訳ないという顔でアスケの方を見る(1枚目の写真)。アスケも、王子を見る(2枚目の写真)〔2人の間の主従の絆がよく分かる〕。王子は、伯爵の意見に従い、馬を城に向ける。アスケは、そこら辺にいる「農民のガキ」と同じなので、敵からは見向きもされない。そこで、こっそり農場を離れ、歩いて城に向かう。王子は、城に入って行き、部下と2人だけでいる王のところに行く。父は、「やっと帰ったか。植物採集は終わったのか?」と、呑気に声をかける。王子は、「父上、アルバート伯爵が!」と必死だ。「我が小さき剣士よ、どうした?」。「司教です! あいつが待ち伏せさせたので。これを見て!」。王子は伯爵の紋章を渡す(3枚目の写真、矢印)。「これは何だ?」。「アルバート伯爵が罠に。司教の企みです!」。王には、まだよく飲み込めない。「落ち着け、ヴァルデマー。アルバートはどこだ?」。王子は窓の外の鷲に気付き、「遅すぎた」と落胆する。その時、声がする。「その通りだ、ヴァルデマー。遅すぎたな」。司教が、“一つ眼” と一緒に部屋に入ってくる。王と王子は、“一つ眼” の部下により取り押さえられ、司教は、「審判の時が来た。イン・ユーディキュオ・デウス〔ラテン語:神の裁きだ〕」と恰好を付ける。
  
  
  

2人は塔の最上部に入れられ、鎖で柱に繋がれる。1人残った “一つ眼” は、王に向かって、「戦争を覚えているか?」と質問をぶつける。「何者だ?」。“一つ眼” は兜を取り、王の前に立つと、「大いなる戦い。覚えているか?」と言い、王の前に膝をつき、顔を正面から見ながら、「アルコーナの戦いだ」と告げる。王は、驚いたように、体を引く。「俺を置き去りにしたな」。王は、信じられないように、「トールスン」と一言。「置き去りだ」。「トールスン・ヴィンゲか?」。“一つ眼” は、「貴様が死ぬ前に 思い出させてやれた」と言い、王の額に口づけする(1枚目の写真)〔愛憎が籠っている〕。“一つ眼” が去った後、王子は「あいつのこと、知ってるの? 何をしたの?」と訊く(2枚目の写真)。「トールスンは、わしの最強の兵士の一人だった」(3枚目の写真)「我々は、アルコーナで3日間ヴェンド族と戦った〔リューゲン島にあるバルト海に突き出したアルコーナ岬?〕。伏兵に遭ってトールスンは倒れた。わしは、死んだと思い、そのままにした。出航を遅らせることなどできなかったから。後で、トールスンが死ななかったと聞いた。ヴェンド族に見つかり拷問されたが逃げた。だが、二度と元通りにはならず、悪に蝕まれて行った。それは、わしがトールスンを見捨てたからだ。わしは、負けいくさで友を見捨てた。失敗だった。お前に対しても失敗した。ラウスボーになど 送るべきではなかった。お前の話を聞き、一緒に連れて行けばよかった。もし、ここから逃れることができたら、二度と手放さないと約束する」。
  
  
  

城では、酒宴が始まっている。シーニュが反乱兵に命じられて酒を取りに厨房に降りて行くと、そこにはアスケが潜んでいた。「アスケ?」。「何が起きてる?」。「王子様が捕らえられたわ。今は塔の中」(1枚目の写真)。「王様の兵隊は?」。「地下牢よ。エスキル司教が、新しい王様になるの」。王は、司教の前に連れて来られる。司教は、「我が友よ」と手を広げるが、王は、「わしは、お前の友などではない。お前の王だ」と、司教の尊大な態度を批判する。「我が軍が、すぐにここにやって来るぞ」。司教は、余裕たっぷりに、「敗者が大口を叩いておるわ。よく聞くがいい、“王” よ。私は、汝の自由意思で、王冠を移譲するよう要求する」と、自信たっぷりに告げる(2枚目の写真)。「あり得ん!」。司教は、「汝のすることは、この文書に封蝋印を押すだけだ」と、読み上げる。「余、ヴァルデマー、神の恩寵による王は、ここに、我がすべての王国をラウスボーのエスキル、名を改め、エスキル1世に移譲する」。「狂ったか、エスキル!」。司教は、窓の外で準備が進む絞首台を王に見せる。「もし、汝が、この文書に封蝋印を押さねば、あそこに吊るされるであろう」。王は、「わしを殺しても、お前は王にはなれん」と歯牙にもかけず、酒盛りをしている反逆地主に向かって、「お前たちはめくらか? この男が、国を仕切れると思うのか?」と怒りの矛先を向ける。司教は、「戯言(たわごとだ)! 文書に封蝋印があれば、事は成る!」と強がる。王は、その無能な答えを聞き、地主に向かい、「奴は見返りに何を約束したのだ? 言ってみろ。ユトランド〔ユトランド半島〕とフュン〔半島と、コペンハーゲンのあるシェラン島の間にある、オーゼンセの町がある島〕は、エスキルを支持せんぞ」と威嚇する。司教:「するとも」。「お前たちは、小心者の司教と、“一つ眼” の傭兵に惑わされておる」。事態が危うくなってきたので、“一つ眼” は、王にナイフを突きつける。しかし、それに対しても、王は、「わしを脅すでない、トールスン」と格の違いを見せつける。そこで、“一つ眼” は、司教に向かって、「息子を吊るせ」と命じる(3枚目の写真)。さすがの司教も、「ヴァルデマー王子をか?」と戸惑う。王は、「息子に手を出すな!」と今までの強気が消え、弱みを握られる。
  
  
  

アスケは、懺悔を聞く修道僧の姿になって、王子を救いに塔に入り込む〔背が低いので、声だけ低くしても、疑われると思うのだが…〕。アスケだと気付いた王子が、「見捨てるつもりじゃなかった」と日中のことを詫びると、アスケは、「吊るされる前にここから出ないと」と現状の厳しさについて言及する。「まさか?」。「首吊り台だって、できてるよ」(1枚目の写真)。アスケは、ナイフを使って錠を外し、王子を柱から解放する。誰かが、階段を上がって来る音が聞こえる〔階段は、石のらせん階段ではなく、木の直線階段〕。アスケは、体に巻き付けてきたロープを急いで外す。側近の性悪な修道僧と、“一つ眼” の手下2人が王子を連れに入って来た時、彼らが見たのは、柱に縛り付けられたロープだけだった(2枚目の写真、矢印は窓の外に伸びているロープ)。ここで、カメラが切り替わり、城壁をロープで降りる2人の姿が映る(3枚目の写真、上の矢印は王子、下がアスケ)。参考までに、4枚目の写真は、撮影に使われたエレン・ドナン城の同じ側の城壁。王子が閉じ込められていたのが、半円形の塔の最上部の部屋だったことが、よく分かる。壁の幅は17メートルなので、地面から窓までの高さは13.5メートル。5階建てのマンションの窓の位置だ。ロープが引き上げられそうになったので、まず、アスケが飛び降りる。そして、王子に、「さあ、飛び降りて!」と言う。その時の位置は、4枚目の写真の塔の3つ縦に並んでいる窓の一番下の辺りまで降りている。それでも高さは約7メートル。2階の屋上くらいの高さ。だから、王子は、最初、「できない!」と断る。しかし、手が滑ってしまい、落下するが、幸い足から着地。2人は、すぐに城壁から離れる。その頃、司教と “一つ眼” は、どちらに王子を逃がした責任があるかで揉めていた。
  
  
  
  

厨房に集まった3人は、これからの行動を協議する。司令塔はアスケ。「王子さんは、父ちゃんのところに行ってて。おいらたちは、兵隊を自由にするから」(1枚目の写真)。シーニュ:「私、王子様を助けなくていいの?」。「シーニュ、君はおいらと来るんだ」。王子:「父上は、どこにいるの?」。シーニュ:「司教と一緒。文書に封蝋印を押させようとしてる」。「文書って?」。「司教を王様にするの」。アスケ:「王子さんは、何とか司教を止めて。おいらたちは地下牢を何とかする」。「だけど、護衛は?」。アスケ:「何とか考えて」。「無茶だ」。シーニュ:「大丈夫、王子様ならできるわ」。アスケ:「やってみてよ」。その頃、司教は、側近の修道僧に黒い布を被せ、王子の代わりに絞首台に連行させる。そして、砂時計の砂が全部落ちる前に封蝋印を押さないと、息子の命はないと迫る。猿轡(さるぐつわ)をされ、恐怖で顔を引きつらせた悪の権現の修道僧がいい気味だ。地下牢では、伯爵を始めとする兵下達が1ヶ所に閉じ込められ、その前で、“一つ眼” の手下2人が見張っている。そこに、シーニュがやってきて、手前の鉄格子をしゃもじで叩く。そして、コックの指示でスープを持ってきたと言う。「スープだと? そんなもん、頼んどらんぞ」。「熱くて美味しいわよ」。牢番が鉄格子の鍵を開ける(2枚目の写真、矢印は湯気の立つひしゃく)。しかし、外に出て器を受け取ろうとしない〔アスケが、棍棒を持って、殴りかかろうと陰で構えている〕。シーニュは、「これ重いの、手伝って下さいな」と悲しそうに言い、しゃもじを落として、かかったしぶきを熱がる。「役に立たん台所娘だな」。さっきの男が立ち上がり、鉄格子を出た所で、アスケが棍棒で頭を殴る。それを見て立ち上がった、クロスボウの男に、シーニュは高温のスープを顔に浴びせる。火傷して牢の脇にうずくまった男から、牢から手を伸ばした兵士が鍵を奪う。一方、王子は司教の部屋の天井を這って進む。所々にある隙間からは、父王が、息子を自由にするため、文書を受け取る姿が見える。司教:「賢い選択だな、王よ」。王子は、「やめて、父上」と念ずる。王子が、開口部から天井を見上げると(3枚目の写真)、司教が立っている真上に重いシャンデリアがロープで吊るしてある〔中世のシャンデリアは、重い鉄の輪の外側に16本のロウソクが円形に並んでいるだけのシンプルなもの〕。ロープの先は、壁の金具で固定されていて、それを解除すれば重いシャンデリアが落下する。
  
  
  

王子は、何とか金具に手を伸ばそうとするが、届かない。その間にも、王は、右手の薬指にはめていた金の指輪を外すと、指輪の印の部分に息を吹きかけて温め、赤い蝋に近づける(1枚目の写真、矢印は指輪に付いた印の部分)。全員が息を呑んで見つめる。王は、蝋につける寸前、思わず天を見上げる。すると、そこには、天井に身を乗り出した王子の姿があった(2枚目の写真、矢印はシャンデリアを支えるロープ)。王は、絞首台が茶番だと気付く。そこで、蝋につけるのをやめ、指輪を手に戻す(3枚目の写真、矢印の奥に指輪)。“一つ眼” は、何か不味いことが起きたに違いないと気付く。王は、「吊るすがいい!」と開き直る。この言葉にショックを受けたのは司教。王は、立ち上がると、「煉獄に落ちたら、聖書でも引用するがいい」と言い、文書を2つに裂いて投げ捨てる。司教はおろおろするばかり。
  
  
  

王子の手がようやく金具に届き、取っ手を引くと、シャンデリアが落ちる代わりに、王子がつかまっていた開口部の彫像が倒れ、勢い余った王子は彫像にぶら下がる形になる(1枚目の写真、矢印は金具)。全員が天井を見上げ、王子に気付く。王子は、「降伏しろ。お前たちは包囲されている!」と勝気に命じる。一斉に笑い声が起きる。「今だ、アスケ!」。扉が開き、地下牢から出た王の兵士が、謀反人に襲いかかる。真っ先に逃げようとしたのは司教(2枚目の写真)。本気で戦ったのは “一つ眼” と、深入りし過ぎたミッケルスン〔前に書いたように、伯爵は、三角巾で腕をつっただけで、なぜか健在〕。王の両手は鎖で繋がれているので、戦えない。王は、必死で、鎖を引きちぎろうと金物で叩くが、なかなか外れない〔片方は外れる〕。そこに、“一つ眼” が向かってきたので、王は、右手の鎖を振り回して戦う。王が床に倒れたのを見た王子は、金具のもう1本の取っ手を引き抜く。今度はロープが外れ、シャンデリアが “一つ眼” の上に落下し、背中と腰を押し潰す(3枚目の写真、矢印は “一つ眼”)。謀反人達は、それを見て観念するが、死罪になると分かっている司教は、王子を捕まえると〔王子が、どうやって下に降りたかは不明〕、喉に “一つ眼” が落としたナイフを当て、「喉を掻っ切るぞ」と脅す(4枚目の写真、矢印はナイフ)。そして、そのまま王子を連れて逃げ出す。
  
  
  
  

王子は、一頭立ての荷馬車に縛られて乗せられ、半ば狂った司教が鞭を振るって馬を駆けさせる。その頃、アスケは、誰もいなくなった司教の部屋で茫然としていると、瀕死の “一つ眼” に足をつかまれる。この悪漢は、最後に何事かをアスケに伝えようと必死だ。ようやく絞り出した一言が、「鷲」。そして、さらに、「鷲を放て。司教を止めろ」(1枚目の写真)〔司教の愚かな企みに乗ってしまったことへの自責の念?〕。アスケは、恐る恐る鷲の近くに寄って行く。鷲は、アスケの瞳の中に刻み込まれた “一つ眼” の最期の願いを読み取る(2枚目の写真)〔アスケの瞳が印象的〕。そして、アスケが脚をくくっていた紐を解き放つと、鷲は 司教目指して空に飛び立つ(3枚目の写真)。
  
  
  

その頃、司教の荷馬車は、森に差しかかっていた(1枚目の写真、矢印は司教、白いものは朝靄)。鷲は、司教を見つけると、“一つ眼” の遺志を継いで、馬を駆る司教に向かって急降下し襲いかかる。馬を御せなくなった司教は、荷馬車を横転させてしまう。荷台に乗せられていた王子も、放り出される(2枚目の写真)。後ろ手に縛られた王子は、何とか立ち上がると逃げ出すが、そこは、以前、アスケに注意された泥炭の沼。王子は、縄を外したい一心で、アスケの忠告を忘れて平気で沼地を歩き回るが、その時、後を追ってきたアスケの呼び声が聞こえる〔全速で駆けていた馬に、アスケは どうやって徒歩で追いついたのだろう?〕。「王子様、どこ?」。「アスケ!」。「そこ、泥炭の沼だよ!」。沼地で叫んだことで、王子は司教に見つかり、捕まってしまう。「お友達のエスキルから 逃げられると思ったのか?」。「放せ!」。「王子よ、我らは一心同体なのだ」(3枚目の写真)。そう言うと、司教は金の字架を王子の首にかける。それでも王子が、「放せ!」と言うと、「この恩知らずの阿呆が!」と叫び、王子の頬を引っ叩く。そして、王子が逃げられないよう、後ろ手に縛ったロープに新たなロープを継ぎ足して自分の体と結びつける。「もうこれで逃げられんぞ」。
  
  
  

この危機の時、もう一度、鷲が司教に襲いかかり、司教は沼に押し倒され、さらに激しい攻撃を受ける(1枚目の写真)。鷲が飛び去ると、司教の体は底なしの沼に引き込まれていく。すると、アスケが王子に走り寄る。司教の体が消えてなくなると、2人を結んでいたロープがピンと張り、王子の体が引っ張られる。アスケは、ナイフでロープを切断し(2枚目の写真、矢印)、王子は沼に引き込まれずに済む。2人は疲労困憊して、飛び去っていく鷲を見つめる(3枚目の写真)。
  
  
  

それから何日が経過したかは分からない。王の軍勢が到着し、アスケは真新しい制服と新しい靴を履き、誇らし気に王子の馬の手綱を持って立っている(1枚目の写真)。王子と王はアスケの前にやってくる。王は、「準備はできたか?」と王子に訊き、王子が嬉しそうに頷くと、「よくやった、ヴァルデマー」と言い、短剣を贈る。そして、次にアスケの方を向くと、「そちもだ、台所の少年よ」と声をかける。王子が、「名前はアスケ、私の従者です」と説明すると、王は手を差し出す(2枚目の写真)。アスケは戸惑うが、王子の目配せで王の手を握る。「感謝する、アスケ。ヴァルデマーに、そちのような友達がいることはいいことだ」。王は、王子の肩をつかむと、アスケの隣に立たせる。2人だけになると、アスケは持ってきたリンゴを地面に一度弾ませてから口にくわえる(3枚目の写真)。
  
  
  

いよいよ出発の時。王子とアスケは子供なので一緒に王子の馬に乗り、王子が手綱を取る。その時、「アスケ」と呼ぶ声がし、シーニュが走り寄る。「ちゃんと王子様の世話をするのよ」。アスケは嬉しそうに頷く。王子は、金の十字架を首から外すと、「これをあげる」とシーニュに渡す(1枚目の写真、矢印)。「それは、私を守ったように、君を守ってくれる」。アスケが王子に、「そろそろ行きましょう」と声をかける。シーニュ:「お気をつけて」。アスケ:「もちろん。敵と遭ったら…」。ここで王子も口を合わせる。「頭に一発食らわしてやる」(2枚目の写真)。王子は、他の兵とともに馬を進めるが、その際にも振り向いてアスケに微笑みかける(3枚目の写真)。2人は主従というより、親友同士だ。
  
  
  

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